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執筆者の写真Hiroaki Ehara

かけだし情報1263

畑情報


 ここ埼玉の鴻巣では11月の半ばから2か月ほど雨が降っていません。雨雲が関東にやってきても、内陸部までは雨になりません。畑は乾ききっていて野菜の生育も停滞しています。昨年はアブラナ科の野菜にダイコンハムシが発生し、成長途中の葉っぱが網の目になるまで食害をされました。その後、種を播きなおしたりもしましたが、雨が降らないことから成長がとまり、例年よりも畑がさみしい状況です。

 このままでは3月から4月にかけての端境期に収穫できる野菜が無くなってしまうので、今年は少し早めに種まきを始めました。と言っても畑に直接種を播いても寒さのために発芽することは困難です。ビニールマルチをしてトンネルをかければ育ちますが、それも雨を待たねばなりません。種を播く畝を準備し、雨が降るのをまって種を播き、トンネルをかけるという作業になりますが、雨がいつ降るかがわからないので気持ちばかりが焦ります。

 そこで今年は秘密兵器を投入しました。通常、苗を育てるのは2月に入り育苗ハウス内に踏み込み温床を設置してからです。踏み込み温床は、落ち葉や米ぬか、鶏糞などに水を掛けながら積み込むことで発酵熱が発生し、その発酵熱を利用して種を播き、苗を育てる有機農業の技のひとつです。

踏み込み温床のメリットは材料に使った落ち葉などが堆肥化、腐葉土化することで翌年の育苗用の培土として利用できる循環が成り立つことです。逆に難しいところは温度を安定的、かつ持続的に維持することで、これは材料や踏み込む固さ、水の量や外気温、そして農家の経験値などいくつもの要素が絡むため、毎年同じになりません。特に寒さの厳しい1月から2月は発芽までに時間がかかることもあり、夏野菜の種まきは立春後としています。

写真は秘密兵器を使った温床で発芽した紫水菜です。種を播いてから2日後の写真です。この温床、実は電気を利用しています。電熱線の入った園芸用のマット(0.5坪)に温度調整のできるサーモをつないでいます。発芽に適した25度に設定しているので、寒い1月でも種は発芽することができるのです。ヒヨコの育雛に使っている小型のビニールハウスを臨時の育苗場としていて、種を播いたトレイを置いているところは夜間はビニールトンネルをかけ、2重の保温にしています。


 寒い中にもかかわらず、小さな芽を出している姿は感動的です。1ミリにも満たないほどの小さな小さな種から芽が伸び、やがて大きく成長していくことは自然の中では奇跡的なことなのでは、と思う瞬間です。

 農業は自然に頼った営みです。もちろん、農家のもっている技術、肥料や機械、時には農薬を使ってあるところまでは人の力で作物を育てることは可能です。また、自然と切り離して施設を利用し、土と離れて工業化した生産も可能になっています。しかし、太陽や雨、風などの力を借りずには作物は育つことができません。光合成により体を作り、風や虫たちによって花粉が運ばれて種を作り、土の中にいる多様な生き物に支えられて成長に必要な栄養を得ているからです。農家はその過程で作物が気持ち良く成長できるように手助けをするだけです。

 ガバレでは4月から有機農業教室を始める予定です。私たちの生活のなかで農業と食の現場がどんどん離れて見えずらくなっていることを感じてきました。スーパーにならぶ野菜やお米は単なる生産物となり、そこから農業や農家の暮らしを感じることはできません。土の感触、野菜の種が芽を出すときの感動、育てたものが虫に食べられたりという体験をしてもらうことで、農と食が近いものになると思います。

 そして中期的な展望として、多様な農家が育ち、地域の農地を維持していくことができるような仕組みを作っていくことも大切だと思っています。多様な農業の形があることで、そこに集まる人、そこからいろいろなことを発信する人が増え、地域がより楽しいものへとなっていくことができるはずです。農業の持つたくさんの魅力に出会ってほしいと思います。


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